暗闇のほとりで

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雑記-古井由吉『古井由吉自撰作品 1 杳子・妻隠/行隠れ/聖』

 古井由吉古井由吉自撰作品 1 杳子・妻隠/行隠れ/聖』を読み終えた。

 

 「杳子」「妻隠」は文庫の『杳子・妻隠』で読んでいたので、本書では読まず、「行隠れ」「聖」を読んだ。 2015年4月から読み始めて、数年読むのを中断しつつ、約8年越しで読了、我ながら気の長い読書だが、読み通しての充実感はなかなかに得難いもので、手放さず読んで良かった。
 その充実感は、描かれている男、女の精神が、作品が発表された時から遠ざかっていっても、読んだ現在にも未だ濃厚に漂っていることを確かめられたからだ。 
 土着や道具立て、性交への至り方はその時代を鑑みて読むことになるが( 『聖』では特にえっありなのそれ…?と思わずにいられない箇所がちょこちょこあった )、登場人物たちの関係性が詰まっていく会話や、容赦なく時が流れていく景色を見る言葉とその後の展開を読んでいくにつれて、神経が張り詰めていき余裕がなくなりそして余裕を生もうとして自己を一種解放した後に振る舞いを弁え他者へ感触を確かめるようにして対話を試みる各々の様が、今この時もどこかで行われている営みの一つなのだという実感がひしひしと伝った。

 目の前のことに向き合う、対処に一時的であれ使えると思って頼る、その時の切実さと酷薄さが滲み出る会話が、どうしたって艷やかなのがまた業なのだと思うと、この人たちはそこから逃れ得ない、解脱するのは時の流れに身を任せる他ないように感じられて、普遍性や作品の時空が拡大していく感などが相まって、読んだ現在にシルエットがくっきりと見えるようになり、対話の行き着く所を知りたいと、ページを捲っていった。作品が、文章が、視座が時空を超越しているんだよな…『聖』は作品のその様に圧倒されながら読んでいた。

 

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 ようやっと自撰作品一巻を読んだ、このまま二巻『水 / 櫛の火』へと行くか、『円陣を組む女たち』を挟んでから行くか、どんどん読み通していこう。

 大きめの目標として、1ヶ月に1冊のペースで自撰作品を読む、というのを掲げておく。読む速度にこだわることはしないけれど、あんまりゆっくり読んでいると読みたいものを読めないまま死んでいるだろうから、流石にペースを上げて、まずは通読する。

 金井美恵子のエッセイコレクションも併読で、今年読み終えたい…阿佐田哲也麻雀放浪記』も、阿部和重シンセミア』『ピストルズ』『オーガ(ニ)ズム』も、その他いっぱいの読みたいものたちも、読みます。読んで、何度も生き返ります。