暗闇のほとりで

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読書雑記 - 『古井由吉自撰作品 一』より「行隠れ」 読了

 

古井由吉自撰作品 一』より「行隠れ」 を読み終えた。

 

2015年から読み始めて、3編目「旅立ち」の途中で5、6年止まって、
先週読んだ『招魂としての表現』をきっかけに「旅立ち」「落合い」「夢語り」を立て続けに読んだ。

 

末尾の「夢語り」は、「落合い」での旅から泰夫が家へ戻り、

旅立ってしまった姉の通夜を迎えることとなった一日を描いたもので、

両親、下の姉 - 斎子、相互の会話や気遣いの様を読むにつれて、

始めの「行隠れ」のタイトル、冒頭の一文「その日のうちに、姉はこの世の人でなかった。」が肉親へ齎す重さをじんわりと感じて、息をついた。


「夢語り」での泰夫と下の姉 - 斎子の、
寝ずの番をしながら、旅立った姉 - 祥子との思い出をぽつぽつと話尽きるまで語るやりとりが、一時、自分の中に籠もらない、ほっとした気持ちになるのが印象に残った。儀式の必要性というものを読み通して得た感覚。

最後の情景が、そこに至るまでの幻覚であることを泰夫自身が分かっていつつ、
姉が良子のことを口にするのを拒絶するのが、深層の意識として浮かんでいる様かと思い、そして目を覚まして家の訪問者を想像する…、
この先は、読者の想像で昇華していくほかないだろう。

 

*

 

「旅立ち」より、姉と泰夫との会話、227 - 229ページ、236 - 239ページの甘やかなやりとりが印象的で、小説を読んでいて好きなところへ辿り着けた心地がした。

描かれているやり取りは、泰夫の幻覚、心の中で生成されたものか、過去に展開された情景のものか、読んでいて判別としないだけに、その分、どれだけこの姉という存在が泰夫の心に根ざしているのかを知れるとともに、喪失を悟るまでの機微が現れているようで、悲しみが積もりゆくさまが伝ってきた。ここは繰り返し読むことになると思う。

 

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「行隠れ」「嫁入り」「旅立ち」( 前半 )を読んだのは5、6年前で、

内容はほとんど憶えていない。
泰夫と良子の関係性はどこから書かれているのかも分からないけれど、
今回はまず先へ進んでいこうと思って読み返さなかったので、また通して読むことはあるから、その時にどういう感想を持つか。こうしてまた書いていると思う。


続いて、『聖』を読み始める。