暗闇のほとりで

読んでいる本についてつらつら書いています

読書雑記-阿部和重『ニッポニアニッポン』、舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』など

ここ最近で読んだもの、読んでいるものを記述する。

 

阿部和重ニッポニアニッポン

→ 先週に同著者の『グランド・フィナーレ』を読み終えた流れで、こちらを読んだ。

読んでいる中での若さ、向こう見ず、短絡的な思考、ご都合的な解釈にこれは俺だけのものだと乗っかる狭い視座、等の描写によるいたたまれなさがなかなかのもので、神の視点での反駁が無い日記の箇所には頭を抱えるほどで、この迷惑な存在感を作り出す手腕に脱帽した。

 土台無理な犯罪計画が、本人なりにパターン展開しながら結局到達出来ないことを悟り、自棄になって宿願が心底どうでもいいことにようやっと明確に気づく様は、そのいたたまれなさの最たるもので、中年に差しかかった年齢の読者としては、改めての他山の石として記憶に留めることとなった。

   出版当時のインタビューを読んで、ラストの伝播は確かにそういうこともあるなと思いつつ、しかしこれは、当人たちのすぐに実行へ移せる行動力と、思考や感情の幼さは、時代が経るにつれての目の前にある現実を生きる切実さの衰弱を現したようでもあり、いろんな意匠を剥ぎ取っていけば、いつの世もとりとめない思考からの転換はこのような普遍的なものでもあり、ここもまた時空を越えるのだと思う。

 さあ、『シンセミア』だ、ということで読み始めた。

 

・読書中

舞城王太郎ディスコ探偵水曜日』上巻と津村記久子『まぬけなこよみ』を読み進める。

ディスコ探偵水曜日』は「第一部 梢」から「第二部 ザ・パインハウス・デッド」へと入る。「水星C」や「大爆笑カレー」といった探偵たちの名前が出てきて、これは奈津川サーガの側面として読んだ方が良さそうという気持ちになった。確か『暗闇の中で子供』で出てきたか、デビューする前の投稿時代での『密室本』で見かけたのだったか…ともかく、探偵たちが集結している西暁編を読み進める。

『まぬけなこよみ』は時候ごとのテーマに沿ったエッセイ集、1編ずつ読んで心の中を換気していく感じで、読んでいて力の抜けるエッセイがどうにも合う。ちびちび読み進めているのでまだ1 /4 程度しか読んでいないが、もっともっと読みたい気持ちが募っている。

 

 

 

読書雑記-色川孝子『宿六・色川武大』、阿部和重『グランド・フィナーレ』等

ここ最近で読んだものを列挙する。

 

・色川孝子『宿六・色川武大

→ いろんな意味でぶっ飛んだ存在感と人をたらしての魅了に満ちた色川武大阿佐田哲也の最期まで過ごした、従兄弟、妻から見た肖像のエッセイで、

この書き手も様々に飛んでいる視座を持っていて、読み進めながら相当な度量がないとこの人の生活に付き合えなかったんだろうな…という手応えが伝ってくるのがおもしろかった。

これからどんどん色川武大阿佐田哲也の著作を読んでいく中で、度々この本に立ち寄って、イメージを補正するというかピントを合わすというか、描かれた姿をまたじっ、と目を凝らすことになるのだろう。

 

 

冬目景「百木田家の古書暮らし」1巻

 → 新作開幕。職業、恋愛、サスペンスの要素が織り交ぜられた群像劇のよう、

これまでのエッセンスの集大成となるような感じを受けた。続きは夏頃に読める模様、楽しみ。

 

 

・浜田咲良「金曜日はアトリエで」4巻

 → 完結巻。4巻は恵美子の視点から、己が感情に気づき、居ても立ってもいられず出張先の先生へ会いに行き…と、自分の行いたいことを悟った時の表情がとても美しく、良いものを読ませてもらった。

…3、4巻は展開が順調に進んでいって引っかかる所がなかった分、1、2巻のワンダーに満ちて読み込むのに時間をかけた方が印象に残るのは、しょうがないか。また読み返して、受ける感想は変わることだろう。

 

 

・小林俊彦「青の島とねこ一匹」6巻

  → 夏の情景、今巻も読んで束の間の一服を過ごさせてもらった。

 

 

阿部和重グランド・フィナーレ

  → そろそろ小説を読みたいなと思い、中編ぐらいの量で何かと探している内に本書を手に取り、読み終えた。

表題作の冒頭、何が描かれているかよく分からなかったが、数ページ読み進めてああ子供服を購入しようとしている所なのか、と思った途端に、作品の世界が頭の中で立体的に現れてびっくりした。こういう文章の組み立て方があるのか…と刺激的で楽しい体験だった。

そうして読み進めて、悔恨とそれでも機会があって対象に接してしまう甘さ、死の方向に流れているのではと合点して食い止めようとする倫理観、どれも一緒くたにそうであるべき人間としての形とならない、なるはずもないという姿が、ただただリアルで息を呑んだ。そして、勿忘草の物語が開幕する…。

神町トリロジーシンセミア』『ピストルズ』『オーガ(ニ)ズム』を読みたい気持ちが高まっているので、次は『ニッポニアニッポン』を読んで、『シンセミア』へ流れていきたい。

 

 

・博「明日ちゃんのセーラー服」1巻

  → 前々から気になっていた作品、そろそろ読もうと思って手に取った。

女の子の制服を着る時の仕草、好きなものを目に映す様々な表情等を、時には異様にも見えるほどのフェティッシュな描き方に面食らいつつ、内容は中学校入学の新生活のフレッシュさがなんとも眩しく、こちらの淀んだ姿は消滅するくらいだ。良いマンガを読ませてくれそうで、楽しみがつづく。

 

 

 

 

 

 

 

読書雑記 - 乗代雄介『十七八より』

乗代雄介『十七八より』、読み始めて約4ヶ月、集中して数十ページを読んでは休み、また読んでは休みで、ようやっと読み終えた。


緊密で、正直何を言っているのかよく分からない文章が記されている意味を惑いながら考え、つまりほぼお手上げの小説を最後まで読み通したのは、この小説は格闘する価値がある、この文体を選択した作者の賭けに乗ってみた、ということになる。

 

光る場面、文章が多くあり、それらが結びついているようなそのことを柔く拒否するような、いろんな記憶を掘り起こす気怠い感じが纏っているのがどうにも魅力的なのだ。

以降、刊行されている作品を読むのがとても楽しみ。

7月に『本物の読書家』が文庫で刊行予定とのこと、そこを読んで、すぐに『最高の任務』を手に取るか…。

 

巻末の群像新人文学賞 選考委員( 高橋源一郎多和田葉子辻原登 )からの選評も奮っている。特に辻原登の以下の言葉に尽きる。

この中身のない小説を受賞作として強く推したのは、時折、何を言っているのか分からないセンテンスやパラグラフから上がる軋り音の中に、ある種の捨ておけない才気が感じられたからである。

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ぶかぶかの文体の可能性に賭けてみよう。


著者がその「何を言っているのか分からない」文章を熟知した上で、ぬけぬけと満天に放つ力強さ、妙な頼もしさに、読者として惹かれずにはいられないのだ。

これこそがまずは才能だな…そして、この小説はそれだけではないのである。読めば分かる輝きだ。

 

 

雑記 - 最近観たもの読んだもの

仕事が正念場に入っているので、しばらくはそちらに振らなければいけない。

読書や映画は少しずつでも行っているので、ここにメモで置いておく。

 

○読了

・山本一生『競馬学への招待』

→ 競馬に関する様々な書籍からの引用を交えつつ、馬、騎手、調教師、生産者、観客等の歴史の一端を紐解いていく、「歴史が築かれた理由を知ることは楽しい」を地で行く本だった。増補版も読みたい。

 

 

・ギミー「アイドルマスター シャイニーカラーズ シャニマスえぶりでい!」2巻

→ 巻末のアンティーカ編は、初めて読んだが描き下ろしで合っているんだろうか…こがたんはこがたんだった。火星人に擬装した霧子はかわいい。

 

 

金井美恵子『愉しみはTVの彼方に  IMITATION OF CINEMA』

アッバス・キアロスタミへのインタビューがまた素晴らしい受け答えで、インタビューはこのようにして花を受け渡し辿り着きたい所へ昇っていかなければ読み応えがなかなか生まれないなと思った。何度も読み返す本。

 

 

ちくま文庫編集部『ひりひり賭け事アンソロジー わかっちゃいるけど、ギャンブル!』

→ 競馬の章での、幸田文「二番手」の文章の幸福度にやられてしまった。

己が思う幸福について、ストレートに爛々に世へ放つ文章がとても魅力的、これはもう著作を読まなければならないな。

 

 

鬼頭莫宏「姫さまのヘルメット 鬼頭莫宏短編集1987-2022」

→ 店頭で見かけて刊行していることを初めて知り、即購入。
2004年刊行の短編集「残暑」がとても好きなので、その収録作を含めて、近年の作品もハートフルでかなり良かった。

「残暑」「パパの歌」「風の王」「バスを釣るなら」「姫さまのヘルメット」の余韻が好きだ。「残暑」のラストページの視線、すーっとした後を引く読み心地、今もなお素晴らしい。
「彼の殺人計画」は結末どうなるかと思っていると、ああ、その死角が…すごい締め。

そして、巻末の仕掛けにはびっくりして、息を飲み、得も言われぬ情感があった。おすすめの一冊。

 

○観了

アッバス・キアロスタミそして人生はつづく

→ ラスト、急の坂道を車でひいこら登ってはずり下がり、いよいよ登りきって、道案内してくれた人を途中で拾って去っていく長尺、遠景のカットがとても好きだ。

金井美恵子によるアッバス・キアロスタミへのインタビューを読んで、息子が先の展開を打破している、皿洗いをしている女の子たちの悲しみとそこから生きる日々を湛える表情など、見所のとても多い映画で、これもまた何度も見返す映画となった。

実際に見返して、ああここはそういう意味でつながっていくのか…とため息をついた。

オリーブの林をぬけて」も近々観よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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読書雑記 - 金井美恵子『愉しみはTVの彼方に IMITATION OF CINEMA』

仕事で頭がいっぱいいっぱいになりがちで、纏まって本を読めないのが気がかり、ここを書くのも少し間が空いてしまった。

 

金井美恵子『愉しみはTVの彼方に  IMITATION OF CINEMA』を読み進める。

まだ今日の陽は高いが、良い文章を読んだなあと思ったので、ここに引用する。

 

「映画は世界を越えて旅をする」のタイトルにて、ルイス・ブニュエルのメキシコ時代の映画が公開されたこの数年でブニュエルの「前衛の難解な映画作家」というイメージがぬぐい去られつつある、その喜ばしさを現した文章。

 ブニュエルは、多くの人々がそう勘違いしてしまうような「ブニュエル的」なものだけで成立している映画作家では決してない。もちろん、「ブニュエル的」としか呼びようのない映画的な瞬間は、随所に、メキシコの鮮明すぎる豊富な光の分量を浴びて輝くのだし、夜の持つ奇妙な悪夢の光も画面を充たし、他の誰も撮ることなど出来なかった『エル』のような傑作がメキシコで撮られはした。

 しかし、他の多くの映画--言うまでもなく、ハリウッドの--を思い出させるフィルモグラフィーを持ち得たことが、ブニュエルの真の偉大さなのだ。

( 中略 )

 四〇年代の後半以降、黄昏をむかえることになるハリウッド映画「黄金時代」のテクニックは、メキシコという奇妙な映画の国で、かつて、ヨーロッパで『黄金時代』というタイトルの前衛映画を撮ったブニュエルによって語られていたのだから、まさしく映画は無国籍な幻影として世界を越えて、旅をするのだ。

 

映画雑記-アッバス・キアロスタミ「友だちのうちはどこ?」

アッバス・キアロスタミ「友だちのうちはどこ?」を観た。


堂々と間延びしたカットと会話へツッコミというか茶々を入れながら、映像に惹き込まれ、締めくくりにそれで良いんだ、そうか良いのかと少し呆然とした。
アハマッドの健気さが報われたというか、なんというか…はあー、と感嘆の音を漏らす。

お母さんは聞く耳をあんまり持ってくれないし、

アハマッドはぐずぐずと考えたり行動に踏み切ろうとして周りをキョロキョロしたり、それらがほぼ素材のままにごろんと映し出されて、より切実さと滑稽さが伝ってくるのがとてもおもしろかった。

いざ、という時に力強く駆け出すのが良かったなあ。


2回映し出される、ジグザグの山道を登り、てっぺんから左へまっすぐに下っていく様を、高台を見上げるように映した全景のカットがとても魅力的だった。
最初は1人、2回目はロバに乗ったおっさんを追っての駆ける子供の姿は涙ぐましく、自然はただただ綺麗。

 

タイトルそのままに、使命感から家を探して手ほどきを受けながら徒労に終わり、

( おそらく )父親に叱られたのか夕食を食べる気力が湧かず、

部屋に移ってから母親にまた夕食を出される優しさを受けながら、

家の外に強風が吹き荒れて洗濯物が乱れて母親が取り込もうとしているのを、

宿題をしながらぽかんとして見ているアハマッド、まず視界に起きていることを見るというのが意識に立つのか、そこからの行動がなかなか出ないのが、8歳の子供らしさなのか、そういうものでもないのか、その年齢から遠く離れ接することも無いと、こういうのもカルチャーショックになるのだろうか。

それにしてもぽかんとした表情、キラキラした瞳が眩しすぎる。あれはすごい…。

 

あと、めちゃめちゃ鮮明に鶏の鳴き声が聞こえるのが妙におもしろかったな…。
友達のノートを間違えて持って帰ってきてしまい、宿題ができず、退学させられるかもしれないので届けたいアハマッドと、手洗いで洗濯しながら子守りや宿題をまず行うよう言いつける母親、その周りで聞こえる鶏の鳴き声…。

無常感というか、吹っ切れるには良いアクセントになっているというか。

 

*

 

保坂和志の著作から十何年も前からタイトルだけは知っていて、なかなか観る機会を作れなかったけれど、去年のザ・シネマでの放映とAmazon Primeにてようやく観ることが出来た、そして観てとても良かった!


早い内に「そして人生はつづく」を観よう。

 

 

友だちのうちはどこ?(字幕版)

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読書雑記 - 金井美恵子『愉しみはTVの彼方に IMITATION OF CINEMA』、「鴛鴦歌合戦」

金井美恵子『本を書く人読まぬ人 とかくこの世はままならぬ』を読み終えて、

タイトルにちなんでいる「鴛鴦歌合戦」がAmazon Primeで観られるので、

良い機会だと思って観た。

ミュージカルで時代劇、その折衷での陽気な歌と表情が観ていて楽しい作品だった。

男女肩を組んで駆ける様が妙に印象に残った。

 

*

 

金井美恵子『愉しみはTVの彼方に  IMITATION OF CINEMA』を読み進める。

述べられている映画や俳優、スタッフ等、そのほとんどをまったく知らないので「こういう世界があるんだなあ…」と今は思うほかないが、この先にまた読む時にはもうちょいピンとくるようにはなっておきたい、という意思はあるのだ。

 

*

 

本棚から読みたい本をすぐに取り出して読めるのは快感だなあ、と改めて思う。

映画を鑑賞するという悦びについて書かれたエッセイを纏めて読んで、本棚に仕舞い、その奥に西原梨花「落ちてるふたり」全2巻を見かけて、
映画好きな子が出ていたなと思って読み返す。登場人物はみんな愛らしい人たちで、もっと続きを読みたかったなあ、という気持ちがまた高まる。

より恋愛ものとして進めていく道筋はあっただろうけれど、でもこの得難いほんわかとした感じは霧散してしまうから、ここで終わりはしょうがないか…。

 

こうして読書は続いていく…。