暗闇のほとりで

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読書雑記 - 金井美恵子『愉しみはTVの彼方に IMITATION OF CINEMA』

仕事で頭がいっぱいいっぱいになりがちで、纏まって本を読めないのが気がかり、ここを書くのも少し間が空いてしまった。

 

金井美恵子『愉しみはTVの彼方に  IMITATION OF CINEMA』を読み進める。

まだ今日の陽は高いが、良い文章を読んだなあと思ったので、ここに引用する。

 

「映画は世界を越えて旅をする」のタイトルにて、ルイス・ブニュエルのメキシコ時代の映画が公開されたこの数年でブニュエルの「前衛の難解な映画作家」というイメージがぬぐい去られつつある、その喜ばしさを現した文章。

 ブニュエルは、多くの人々がそう勘違いしてしまうような「ブニュエル的」なものだけで成立している映画作家では決してない。もちろん、「ブニュエル的」としか呼びようのない映画的な瞬間は、随所に、メキシコの鮮明すぎる豊富な光の分量を浴びて輝くのだし、夜の持つ奇妙な悪夢の光も画面を充たし、他の誰も撮ることなど出来なかった『エル』のような傑作がメキシコで撮られはした。

 しかし、他の多くの映画--言うまでもなく、ハリウッドの--を思い出させるフィルモグラフィーを持ち得たことが、ブニュエルの真の偉大さなのだ。

( 中略 )

 四〇年代の後半以降、黄昏をむかえることになるハリウッド映画「黄金時代」のテクニックは、メキシコという奇妙な映画の国で、かつて、ヨーロッパで『黄金時代』というタイトルの前衛映画を撮ったブニュエルによって語られていたのだから、まさしく映画は無国籍な幻影として世界を越えて、旅をするのだ。