暗闇のほとりで

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雑記-矢作俊彦『新ニッポン百景―衣食足りても知り得ぬ「…礼節…」への道標として』

 矢作俊彦『新ニッポン百景―衣食足りても知り得ぬ「…礼節…」への道標として』を読み終えた。

 90年代前半の日本各地の「満ち足りた衣食の対価として」遺された風景を2ページ + 写真の形式でルポを読んでいく内に、同時期に執筆されていた著者の『あ・じゃ・ぱん!』のアウトラインを辿れているような気になった。

 田舎に遺された風景が、バブルを通過しなかった場合、バブルを通過してまだまともな判断がくだされた場合での批評を加えたオルタネートヒストリーとして描かれた側面はあったろうな、と読んでいてまた『あ・じゃ・ぱん!』の作品が頭の中で立ち上がってきて、それがとても楽しい。読者への要求が無尽蔵に高くて追いていくのにいっぱいな作品だったけれど、この本で著者たちが見て、聞いて書き記していった知識と情感( 私怨?もあるか )を仕入れてみると、また見え方が変わっていくようだ。千葉への痛罵がなんとも…。

 日本各地に出向いているので、東京や大阪のへんてこな風景もあるけれど、田舎に遺された風景の回を読むと、殊更に橋本治『貧乏は正しい!』を思い出す。あちらも90年代に書かれた、80年代からの築かれていく、崩れていく、省みられることなく亘っていく価値、景色と、それらを踏まえざるを得ずこれからどう進んでいくかを纏めた、読みごたえのあるシリーズだったと改めて感じ入る。どちらの著者も都会出身、地方出身でのこういった振り返りをしている本はあるのかな。その視点でも読んでみたい。
 この本は1995年刊、28年経った今も、この風景や建物はあるのかな…とGoogleストリートビューで見る、続いている重みを垣間見る。 続きの『新ニッポン百景―衣食足りても知り得ぬ「…礼節…」への道標として ’95~’97』は、読む機会を得られるかな…試みよう。