雑記-矢作俊彦『引擎/ENGINE』『悲劇週間』、古井由吉『折々の馬たち』、ひらかわあや「帝乃三姉妹は案外、チョロい。」1、2巻、等
小説を読みたい気持ちが湧いてきて、矢作俊彦『引擎/ENGINE』を手に取り時間があればぐびぐび読み進める感じで昨日読み終えた。
終盤にかけて、ファム・ファタールの超人さにやや追いて行けない感じになって、読むのを何日か休んだりもしたけれど、事態の速さと大人の手管で処理しつつ巻き込まれていく描写に乗って、いよいよ最終ページにたどり着き、游二によるファム・ファタールとの反転となるお別れ、何も残さないエンディングがこの小説にふさわしく、本を閉じると、映画館でこの『引擎/ENGINE』という映画を観てエンドロールを見届け席を離れて外へ出る、そんな気持ちにふとなった。
冒頭に記載されている大藪春彦への言及やネット上の感想を読んで、大藪春彦作品に興味を持った。いつか読もうと思っていたけれど、この読書が契機として、『野獣死すべし』『蘇える金狼』『汚れた英雄』『血の来訪者』等を読んでみよう。
『引擎/ENGINE』を読み終え、もうちょっと矢作俊彦作品に浸かりたいなと思い、積読棚より『舵をとり 風上に向く者』『夏のエンジン』『悲劇週間』を取り出し、長編で行こうと思い『悲劇週間』を読み始める。
「ぼく」 = 堀口大學20歳、やや青臭い一人称の語りと矢作俊彦という作者名に面食らいつつ、随所に矢作俊彦の流麗な言い回し、会話や思いの切り返しが出ていて、このマッチングもまたアリだなと思いながら読み進めている。ここも楽しい時間を過ごせそうだ。
*
古井由吉『折々の馬たち』を読み進めている。
収録されているのは1985、86年に『優駿』で連載された「馬事公苑前便り」、去年刊行された『こんな日もある 競馬徒然草』に所収のものと比べて一回の分量が多く、その時々のレースだけでなく、住居の近くにある馬事公苑での景色、心情風景、また牧場へ寄った時に見かけた種牡馬、繁殖牝馬たちの生き生きとした様等、読み応えがまた異なっていて、一編一編噛みしめるようにゆっくりと読んでいる。
パドックでは最後に目を見る。これは馬の目のことだ。いかった、凄みのある目、条件戦では、それがいいように思う。しかし重賞からビッグレースまであがると、深く澄んだ感じがよろしいようだ。それに力がひそんで、ときにきらりと輝き出る、と来れば申し分ないところなのだろうが、私の好みとしては、落ち着きの中にそこはかとなく不安の色を漂わす、いくらか心細げな目を選ぶ。
古井由吉『折々の馬たち』82ページ、「なま見えの楽しみ」より引用。
引用箇所は「なま見えの楽しみ」の節「パドックでは」の締めにあり、この「パドックでは」の内容、実感が迸っていて良い…。
パドックで馬の目を見る、というところまでは意識していなかったな、面構えを見るはしていたけれど、そうか、目か、と読んでいて妙に腑に落ちるものあり、映像でどこまで情報を得られるか、と引きつつ、明日、パドックでは頭に置いてやってみよう。
「なま見えの楽しみ」では序盤の65 - 70ページにシンボリ牧場でモガミとパーソロンを見た時のことについて詳述されており、モガミの行く行くはこの牧場のボスは俺だ、という様を認めた文章を思うと、この末尾にある馬力、威勢を見るは、まずはの必須条件、そこから先は総合力と洗練なのだと改めて。目に物語が宿る、運命の趨勢を見る、確かにその通りだ。
*
サンデーうぇぶりにて「土曜日の更新作品ランキング」でひらかわあや「帝乃三姉妹は案外、チョロい。」が1位となっているのを見かけて読み始め、ラブコメ好きな自分にとって終始ニマニマできる作品ですっかりハマる。
1、2話を読んでからすぐに1、2巻を電子書籍で購入して読み、未刊行分から最新の配信回までを含めて何度も読み返し、そう、優を含めて全員チョロいんだ…!壁なんて自分から作っていただけで見えない穴を突かれて心が良い方向へ開放されたのならあとは大切な人へ表現するばかりなのだ、そんな感じで三姉妹同士でコミュニケーションをしているのが読んでいて気持ち良い。
10月発売予定の3巻は長女 一輝のデート回が収録、まさに変身というべき一つの壁を打破するためのお話、これも読み返したい、良い作品に出会えました。